マントル
石田 圭太

隔たりを埋めるために

どこまでもどこまでも下ってやるんだと思っている

今数々の生き物たちと別れを告げて

新しい出会いと別れという

いわゆるお涙頂戴を繰り返しながら

たまには一方的に頂戴してやろうかと思っている

俺達の流す涙の間には長い隔たりがあるから

それも含めて全てが長く隔たっているから

どこまでもどこまでも下ってやるんだと思っている

繰り返すうちにやがて建物は少なくなって

一切の乗り物にも乗れなくなるよ

孤独を感じてもやるせなく走るしかなくなる

すべてとお別れしなくてはならない日も来るかも知れない

だけどそれは可能性の話だよ

どうか怯えないで欲しい

俺達のまぶたにはしばしば海がやってくる

その時までにはたくさんの食事をしなきゃならない

あいつもこいつもどいつもの名前も食らわなきゃならない

空を見たって命は遠くてよく見えない

風を見たって命は流れてよく見えない

土を見たって命は埋れてよく見えない

いただきますもごちそうさまも言う暇がないくらいスピーディーに

やるせなく走りながらそういった命は見過ごす事になるだろう

その時俺達には忘れてはいけない命の輝きが浮かぶ

決して忘れてはいけない輝きが浮かぶ

やるせない気持ちで肩を落としながら流す俺達の涙の間には長い隔たりがある

ふがいない気持ちで何かをぶっ飛ばしたい俺達の涙の間には長い隔たりがある

決して忘れてはいけない

涙の匂いを思い出すんだ

俺達がそうやって熱く水に憧れる頃

やがてまぶたに本当の海がやってくる

澄みわたりすぎて

それはもう澄みわたりすぎて見えなくなったもの達だ

綺麗だろう

わからないって事がこんなにも澄みわたりすぎて

こんなにも気持ち良くなれる

それすらも可能性の話だよ

海面には船がこみ上げてきて

次々に弾けているんだ

松島の花火大会を思い浮かべてごらん

丁度扇のような形をしながら春青とした海面を

温かい夢のように先取りした夏のように

しゃぼんのように船が弾けているんだ

ひどく曖昧で

綺麗に未熟なそれを眺めながら

俺達はぷかぷか煙草を吹かしている

俺達もぷかぷか弾けている

その時相変わらず俺達の涙の間には長い隔たりがあるだろうけれど

そうしたら今度は深まっていこう

光のようにどこまでも真摯な姿になって

俺達を支えてくれる途方もなく硬い所まで

そしてその先にある途方もなくやわらかい所まで

美しい隆起を泳ぎながら

感動的にたれ流しながら

嬉しい!

すごく嬉しい!

響き渡りながら


自由詩 マントル Copyright 石田 圭太 2007-03-05 16:14:15
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