太陽が死んだ夜
八月のさかな

夜はどこまでも深まり
朝はいつまでも逃げ続ける
そうして明けないよるを嘆くかのように
星が地に落ちてなみだに暮れる

どうしてなくの
通りがかった少年が聞くと

もう自由にはなれないから
ひかりを失った星はこたえる

どうして自由になれないの
少年がなおも聞くと

太陽が死んでしまったから
星は悲しそうにこたえた

世界を支配する夜は果てもなく更け
その色はどこまでも濃くなるばかり

ぼくに出来ることはある?
少年は優しくそうたずねると

星はしずかににっこりわらう

それならばおおきなおおきな画用紙に
太陽の絵をかいてくれないか
そしてはじっこをぼくにわたして
空に思いきり投げてくれないか
きみたちが永遠に夜にとじこめられることのないように
ぼくが朝をもういちど連れてきてあげる
にせものの朝だけど
太陽はもうのぼらないけど
きみたちが永遠に眠っていなくてすむように

少年は世界中をはしりまわって
おおきな画用紙をてにいれた
力強く太陽を描き はじっこを星に手渡して
おもいきりかれを空に投げ上げる


そして世界に朝がきた


人々はあたりまえのようにベッドから起き上がり
学校へいき 仕事をして 暗くなればまた家路を急ぐ
毎晩画用紙をたたむ星のことなど何も知らずに

少年はつくりものの朝をみあげて
太陽を永遠にうしなったそらと
朝をむかえるひとびとを見比べる
画用紙をひろげる星がときどき思い出して泣くたび
涙の雨が少年の頬を濡らす


今宵も夜は暮れる




自由詩 太陽が死んだ夜 Copyright 八月のさかな 2007-03-05 04:53:29
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