マリンちゃんは巴里へ
しゃしゃり
おれはニューヨークへいきたい
夜に恋したい
摩天楼に踏み潰されて
よそ者になってみたい
田舎者の悲哀に浸りたい
もっと昔、絵に描いたような昔の
大都会に憧れている
おれはべたな男だ
ジョニーは鳥取県へいきたい
砂丘に凝っているから
凝っているといっても
本屋さんで見つけた砂漠の砂を
サハラまで返しにいきたいと
ただそう思いついただけのことで
アフリカは遠いから鳥取砂丘でもいいらしい
ジョニーはジョニーだ
マリンちゃんはフランスへいきたい
マリンちゃんのおじいさんは
フランス人で
つまりマリンちゃんはクオーターってやつらしい
どおりであんなに色が白く
どおりであんなに遠くばかり見てる
もう巴里に住むんだって
パスポートも国籍も取ったって
マリンちゃん
おれにはもう
伝えることばもないけれど
きみはきっと
だれよりもしあわせになるさ
外は春の風が荒れ狂い
マリンちゃんは
かぼそい声でうなずいただけ
ジョニー
マリンちゃんは
お前に逢いたいんだ
なんでかはわからない
でもたったひとりのお兄ちゃんだから
そうゆうべたな理由でいったい
なにが悪いってゆうんだ
ジョニー
砂漠の砂の砂時計を
なんべんもひっくりかえしながら
ジョニーはめずらしく
なにも言い返してこなかった
けっきょくジョニー
おまえはただの
インチキやろうなのか
マリンちゃんは来月フランスへいく
おれもいつかニューヨークへいく
そのときジョニー
おまえは
そうやってただ
砂時計をひっくり返して
鳥取県への時刻表を
ながめているだけなのかい?
ジョニー!