ノート(原のなかの家)
木立 悟




燃える草の原のむこうで
夜は息をしつづけていた
生まれる前のものが羽に包まれ
夜とともに揺らいでいた
かがやきのない星が穴のように在り
風と煙と火の柱を
吸い尽くすように吸いつづけていた


壁と壁の間の塊が
血と水銀と曇に還り
夕暮れが消える方向へ
原のかたちを描いて流れた
光は水鳥の群れに照り返し
灯のない家へ降りそそいだ


岩から岩へ
うすい藍色の衣が散らばり
姿かたちのないものたちが
次々と身につけては去っていった
ひとりの声が岩陰に立ち
顔と喉を手で覆った


窓にはうたが隠されていて
鏡をむらさきにふちどった
鏡のなかのどの窓にも
空の他は映っておらず
むらさきの額に入れられた
空を切り取る絵のようだった


塊を失くし
壁は倒れ
流れは速く
色を置き去り
鳥はかがやき
柱をめぐり
屋根の上をすぎていった


岩の街の通りから
声はうたを聴いていた
蒼と灰の水たまり
夜を遠ざけ
原を呑み込む火に囲まれて
家は静かにたたずんでいた
















自由詩 ノート(原のなかの家) Copyright 木立 悟 2007-03-04 16:12:39
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