届かぬ文
なかがわひろか

遠い貴方へ手紙を書きます
そこに貴方がいないことは
とうに出た答えであると知っていても
貴方の名前を記す時の
指の動きを褒めてくれたことを
私は生涯忘れません

下げつらんでいらしゃいますか
己の選択を悔やんでらっしゃいますか
どちらでも構わないのです
貴方がいない
それは仕方のない事実ですから

何方(どなた)かに届く手紙は真実ですか
嘘とはつまりなんなのでしょう
貴方のいないことを気づくことは
私には偽の形でしかないのです

最後の文字を記すとき
私は一瞬貴方と決別します
それが本当の別れではないのかと思う私は
現実に生きているのでしょう

(「届かぬ文」)


自由詩 届かぬ文 Copyright なかがわひろか 2007-03-04 13:15:41
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