思い出の美術館
はじめ

 ぼくは手を後ろに組みながらいろんな色の額縁にかざられた思い出の絵をながめている
 幼い頃の絵 少年時代の絵 青春まっただ中の絵 青年時代の絵
 ここまでしかない ぼくは死んでしまったからだ
 真っ白い廊下 ほこり一つ落ちていない
 ぼくはここの館長だ
 来客者はきみ一人
 毎朝早起きして掃除をしてきみのためにコーヒーをいれる
 頭の上のわっかもきれいに磨いておく
 しずかなクラシックの音楽をかけておく
 くもに乗ってきみはこの美術館にやって来る
 太陽の光をてりかえす美術館
 きみは毎日あきずに絵をながめている
 ぼくもあきずに絵のくわしい説明をする
 きみはいつのまにか地上で好きだったきみの姿になっている
 当然きみと出逢った時の絵も飾られている
 きみは「私こんなにきれいだったかなー」とてれ笑いした
 きみは全ての絵を見終わるといつものベンチにすわる
 ぼくはコーヒーを持ってくる
 きみはそれをゆっくりと飲み「おいしい」とほほえむ
 そうやっていつものおだやかな時間がゆっくりとすぎていく

 やがてゆうぐれ時になると
 それまでさかんだったおしゃべりをやめ
 きみは帰っていく
 ぼくはコーヒーカップをあらって
 美術館をしめる


自由詩 思い出の美術館 Copyright はじめ 2007-03-03 17:30:58
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