繰り返される
狩心
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何処から来たかは分からない
なぜこんな所に入り込んでしまったのだろう
出入り口の無い壁に囲まれた部屋
そこには 私と空気と壁しかなかった
手で壁を力一杯叩いても壁はびくともしなかった
残されたのは変形した私の手と
生きている事を実感できる痛みだけ
何もする事が無いから退屈だった
この部屋からはもう出られないんだと分かった日から
私は自分を壁にぶち当てるのを繰り返し
体を変形させる事に没頭していった
醜くなっていく体を見て美を感じていた
見た事の無いものを見て高揚していった
それ以来 出血が止まらなくなった
壁に話し掛けてみたが人間の言葉など通じるはずも無かった
数え切れない時間を経て
体を変形させる事に飽きた日から
ただ静かに壁に寄り添うようになった
心を通わせる為に
数え切れない時間を経て
冷たい壁に心がある事が分かった
私は自分勝手に叩き続けていた事を壁に詫びた
本当に申し訳ない事をしてしまった
数え切れない時間を経て
壁に寄り添い過ぎた為に
耳が壁に完全に付着してしまった
身動きに不自由を感じたが仕方が無いと諦めた
何度も何度も 優しく静かな振動が 壁の中から送信されてきた
私は優しく静かに壁を叩き 壁の中にいる恋人へ返信した
数え切れない時間を経て
米粒ほどの虫を見つけた
今まで壁の事ばかり気にしていて気付きもしなかった
この虫は始めから部屋の中にいたのだろうか
それとも 外からこの部屋に入って来たのか
外から来たのならどこかに出入り口があるはずだ
数え切れない時間を経て
壁の隅にある米粒ほどの小さな空気穴を見つけた
こんなに小さくては私は通る事は出来ない
期待はすぐに崩れ去った
私の体から壁に滴る血液を虫が嬉しそうに舐めていた
いつしか その虫の成長が唯一の楽しみになっていた
いつしか 壁の存在を忘れ 虫だけを見つめていた
数え切れないほどの時間を経て
虫は私と同じ大きさに成長した
虫は部屋から出られなくなった
その時 虫は初めて壁の存在を知った
私は自分がした事を悔やんだ
しかし 虫は私を母のように慕った
数え切れない時間を経て
割り切れない思いを胸に
私は少しずつ空気になっていった
米粒ほどの空気穴を抜け
外の世界に出た
自己さえも消滅していくのを感じた
自由
ずっと待ち望んでいた事だったが・・・
愛しいもの
全て失い
私は
何者としても存在できなくなった
部屋に取り残された虫は
愛を欲した
形を必要とした
そして自らの体を壁に叩きつけ始めた
必死に 存在したいが為に