暗がり
436

春を見ずに死んでいく
捨てられた子犬は
どれほど悲しいものか

いや春を知らないということさえ
知らなければ
さほど悲しくはないのかもしれぬ

悲しいのはそれを見つめて
自分にそれをなぞらえている
どうにもできない自分自身だ

そういえば私もこの道を歩んでいるのだった
彼岸へとまっつぐに続くこの道を
ゆっくりと確実に

春を知ってしまったばかりに
やけに悲しい気分になりながら歩いているが
絶望やら虚無やらといった気分とは大違いだ

そうか
彼岸へと続くこの道を
ゆっくりと死にながら歩いているのだから

私の中の感情を受容する部分も
ゆっくりと死のうとしているのだ
この真っ暗なトンネルのような道の上で




自由詩 暗がり Copyright 436 2007-03-01 09:15:26
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