国歌斉唱
たもつ



駅のホームで国歌を斉唱します、国歌を斉唱したいのです
どこの国歌でも構いません、僕は斉唱したいのです
恋人はホームの先端でフェンスを噛み砕いています
ものすごい音をたて、あるいは音をたてないで
僕は国歌を斉唱します、高らかに!斉唱したいのです

ある日、僕はこつ然と駅のホームに立ちました
国歌を斉唱する僕の足元にスズメがやってきて小さな歌を歌います
ベンチでは初老の紳士が一人、西洋式の便器を大事そうに抱きかかえ
良い思い出を、とつぶやきながら、走り去る列車に手を振っています
ホームの先端、恋人はフェンスを噛み砕き続けています
もう、彼女に歯はありません、僕は国歌を斉唱します

どこの国歌でもいいのです
その国の人を大切に思います
その国の大地、一番北に咲く花のことも
その国のすべての階段という階段が健やかに階段であることを祈ります
僕に国歌を斉唱させてください

ホームの先端でフェンスを噛み砕き続けている恋人は
すでにフェンスになってしまいました
伝えなければならないことが沢山あったはずなのです
だから僕は駅のホームになろうと思います、なりたいのです
先端でフェンスである恋人がフェンスを噛み砕いている駅のホームになりたいのです
そして僕は国歌を斉唱します
もう、「愛」という言葉で何もごまかしません






自由詩 国歌斉唱 Copyright たもつ 2004-04-18 07:44:12
notebook Home
この文書は以下の文書グループに登録されています。
四文字熟語