先夜のほどろ
朱雀

後れ毛 梳くうて そっぽ向き

微かに震える伏せ睫毛
 
「辛くはないの?」と、宵の月


若やる胸に絡ませた

好きと嫌いの綴れ織り

先夜の淵に咲く花を

見ては見ぬふり 気が揉める


不意にそぼ降る涙雨

雨音あまねに混じる透声に

「また会えるの?」と、霽の月


濡れて濡れて泣き濡れて

ぽつんと穿げた胸の奥

先夜の真星まぼしに散る花の

儚き影が いと悲し


知らずに漏れた溜息が

足元あもとに奔り 青鈍あおにびの海

「まだ恋しいの?」と、名残月


凛と結んだ桜桃くちびる

かくのみ故に 恋ひやわたらむ

先夜の果てに舞う花の

物狂おしい あで姿


自由詩 先夜のほどろ Copyright 朱雀 2007-02-25 13:37:44
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月下の幻視者