エレベーター
サナギ
重たい例のあれを背負って歩いていると
エレベーターがあった
金属の扉だった
すらっと扉が開いて
ぴっちりした詰襟のエレベーターボーイが
真っ直ぐ立って
「上へまいりまあす」だと
たまには前だけじゃなくて上もいいかもしれん
乗ってみた
0.1, 5, 1/3, 87, 3.4, 88, 5/2, 10005, 899, π, 2X, 882, 0.00689, 5689階
何だそりゃ
「ご利用階をお申し付けくださあい」
5/2階には何があるんだ
「何もございませえん」
何かある階はどれだ
「ちなみに墓標売り場は5689階でございまあす」
エレベーターボーイはすまして言いやがる
墓標は持ってるよ
「ですから、墓標を売る場所でございまあす」
なるほど、と俺は思った
お前は墓標を売って、エレベーターを買ったんだな
と言ったら何か気に障ったらしく(図星だったからか)
「本日はご利用ありがとうございました」
ぽいっと追い出され
「上へまいりまあす」
涼しい顔で上に行っちまった
何てことない話だが
時々奴のことを思い出す
ぴっちりした詰襟
真っ直ぐに立って
上下移動し続ける
墓標を売って
奴は幸せだろうか
たまには屋上で
風に吹かれたりしているんだろうか
俺は墓標を売る気はさらさらないが
たまには屋上に
行ってみたい