トマト
水町綜助
たとえば
晴天で
海沿い
海岸線
僕はモーターサイクルで
あなたは一艘の舟
並行して走る
僕は大陸を飛び跳ねるが
海原に出られない
あなたは七つの海を越えられるが
陸では乾いてしまう
平行して海岸線を走る
その一艘の舟の上から
蹴たてるモーターサイクルの上から
トマトを一つ
この世にたった一つのトマトを
投げあう
そのトマトは太陽のように熟れていて
みずみずしいけれどいまにもはちきれそう
だから
そいつを
潰さないように
落とさないように
滴らせないように
大事に
大事に
でもできるだけ早く
できるだけ早く
投げあう
手がひりひりと痺れて
僕たちはそれだけ
それだけでいい
僕は空気を壊すように
あなたは風を孕ませるように
進めばいい
そしてどこかの岬の灯台でいつか
カモメの糞に脅えながら
ああきたねえとか笑ってのんで
酔っぱらえれば
それでいい
雑音が多い
雑音が多いよ
町は
人の集まるところは
そのさなかは
真夜中の高円寺で
人に連れて行かれたバーで
バーテンの野卑な冗談に
本気で
怒った
あなたが好きだ
それは肉体だけの繋がりでしょう
え?
ちがう
絶対に違う
頬は上気し
血が逆巻いていた
まちのさなかで
その雑音の中で
相手を
抱きしめられる
あなたが好きだ
人間のにおいがして
そのとき世界はとてもやさしい
僕は風を壊して
その欠片を見せるから
あなたは
風を帆にうけて
それを掬って
のませてくれ
何杯も
何杯も
何杯も
それは
人間のにおいがして
よえば
そのとき世界はとてもやさしい
から