大灯台
三条麗菜

私が今どこにいるのか
あなたには
分からないかもしれません

でもいつか私は
一つの灯台となり
私の存在を
あなたに知らせることでしょう
広大な海をも超える
確かな力を手に入れて

紀元前のアレクサンドリアに
そんな大灯台がありました
高さは百数十メートルといわれ
当時で最も高い建造物です

そしてその光は
海の果てまで届いたのです

あなたは今どこにいますか?
迷っていませんか?
心細くありませんか?
あらゆる行き場所を
失っていませんか?

望もうとも望まざるとも
人はみな独り船に乗り
風に流され行くのです
波に揺られて行くのです

私は陸地にたどり着き
次々と襲い来る波に耐え
灯台として立ちたいのです
あの失われた大灯台として
あなたのために立ちたいのです

そして冷たい風と
荒れる海原にあえぐあなたを
私は照らし出すのです
闇の中に
ただあなただけを

私の光が届いたなら
きっとあなたの心の中に
伝説の都アレクサンドリアが
出現することでしょう

たとえその都が
本当には存在しなくとも
かつて栄えた貿易都市の
賑やかで温かいざわめきが
多様な国々の豊かさを喜ぶ声が
あなたに聞こえることでしょう

自分の国しか見えなくなり
自分の姿しか見なくなった
多くの人々からあなたを
救い出せることでしょう

今は私も船に乗り
陸地を探しているばかりです
  
私の存在があなたから
見えなくなったとしても
流され
揺られながら
今も探しているのです


自由詩 大灯台 Copyright 三条麗菜 2007-02-23 01:08:50
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