わりきる
水中原動機

「1÷3=」と問われて
「はい、1/3です」
「小数点第二位を四捨五入して0.3です」
「0.33333333…で、循環小数です」

級友はいろいろな正しい答えを出し
そして問いを忘れていったが
私はずっと0.33333333のあとも
3を書き続けていたのだった

ノートの余白を埋め尽くし
机をまっくろにし
教室の床を浸食し
校舎の壁をおおってしまった

学校を卒業しても
私は3を書き続けていた
鉛筆、絵の具、食物、あらゆる体液
あるいはキーボードで3を入力し続けた

もちろん部屋も家も3であふれかえり
家族は3が何なのか問うのをやめ
私を見ることすらやめたのだが
それでも3を書き続けていたのだった

最初はからかいはやしたて
あるいはともに3を書いたものたちは
いつのまにやら見あたらず
それどころか周りに誰一人いなかった

そんなことを続けているうち
両の手足は動かなくなり
口で書くものを持つのも侭ならなくなった
それでも私は頭の中で3を書き続けたのだった

脳は無限のスペースだったのか
3をいくら書いても書いても書けるのだったが
書いても書いても終わりはなかった
果てしない

「3、3、3、さん、サン、、、、、、」
ある日私はなぜか声を発したのだ
最初は小さくつぶやくように
だんだんとボリュームをあげて

「さん、さん、さん、さん、さん、サン、サン、さん、、、、、」
「さん!」「さん!」「さん!」「さん!」「さん!」
「さん?」「SUN」「彡」
「山」「酸」

あるいは歌うように
あるいはとめどなく涙流しながら
ときにやさしく撫でるように
そして世界に轟かせるように!

その声は届くのか
そんなことは分からなかった
そもそも誰かにどこかに
届けようとしたのかさへも


自由詩 わりきる Copyright 水中原動機 2007-02-21 21:50:32
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