創書日和「炎」   彼女
逢坂桜

   あのころ、私と彼女は高校生だった

   彼女はとてもかわいかった

   ちょっと低めの身長も、いつも笑っているのも、みんなかわいい

   友達が「小学生から成長してないんじゃない?」言うと、

   「ひどーい」と、言いながら、

   やっぱり顔をくしゃくしゃにして笑ってて、かわいいな、と思った

   そんな彼女が、逆恨みされた

   つきあっていた男絡みで、完全な逆恨みで、みんなで彼女を守った

   が、隙を突いて、取り囲まれてしまった

   私は彼女の盾となるように、守ろうとした

   が、女どもは集団で、私をひきはがして、彼女に手を伸ばす

   4人がかりで押さえつけられた私は、自分の苦痛より、

   見たこともない怯えた表情の彼女に、顔をゆがめた

   そこへ、男が登場

   首謀者はひきつった顔だったが、それでも精一杯の虚勢をはった

   彼が彼女の名前を呼んだ時、風よりも早く彼女は彼の元へ走った

   彼の右腕に、しっかりと腕を絡めて、女を見た

   「もう、あんたなんかこわくない」

   一瞬にして彼女の眼に宿った強い光は、炎のようだった
  
   すべてを燃やしつくすような、強い、まなざし
   
   そして、口元には笑みを浮かべていた
    
   子供のような笑顔は微塵もなく、

   兵士を率いる女神のように、気高く、凛々しく



   そんな彼女を見たのは、後にも先にもその時だけだった

   誰しも、己の内に火を灯していて、

   時には炎、時には焔となることを、知った
 


自由詩 創書日和「炎」   彼女 Copyright 逢坂桜 2007-02-20 18:29:39
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