右手を引いて、私を其処に連れて行って
くろねこ。




そこで目が覚めた



闇に溶けた室内で、ありもしない天井をただじっと見つめる
何も覚えていない
そのかわり、汗に濡れそぼった自分と酷い喉の渇きを感じる

どこからが現実で、どこからが夢なのか

手を伸ばす
現実には存在せず、夢には存在する貴方を求めて
私の隣で寝息を立てて
悪夢に追われた私をいつも抱き締めてくれた
そんな貴方の存在も、今ではもう遠い幻

不自然に宙に浮く右手
ぬくもりに触れられないその右手は
小さな安堵と深い絶望をもたらした
いるはずがない
貴方はもう此処にいるはずがない
深く深くそう胸に刻み込んだあの日々は嘘じゃない

どうして連れて行ってくれなかった?
どうしてまだ迎えに来てくれない?
貴方の唇が「あいしてる」と
最期に動いたように見えたのは 私の勘違いですか?

涙の味と
繰り返し繰り返し問いかけたこの言葉は嘘じゃないから




そっと目を閉じた



不意に感じる、ちいさなぬくもり








ああやっと、むかえにきてくれたんだね


自由詩 右手を引いて、私を其処に連れて行って Copyright くろねこ。 2007-02-20 13:38:25
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