つくし
士狼(銀)

たくさんの雨が
パンドラの筺の、その奥底から降ったような夜
咳が止まらなくて
眠れなくて

今朝方ツクシが顔を出し始めました
と、一筆箋に書き始める

生物表記には片仮名じゃないと落ち着かなくて
ツクシ、と書いてはみたものの
思い出すのは
平仮名の丸みと柔らかな春

ひょん、ひょん、と蝶々を追いかけながら
つくしの前で立ち止まって
春の匂いを嗅ぎ取ってから
幸せそうに
大きな黒真珠のような目を細める
菜の花に囲まれていたあの仔はもう、いないので
思い出すのは
最期の目に拡がった絶望ばかり

光は
すぅっと、まるで箒星の尾のように
一瞬で奪われた

肺の痛みに顔を顰めて
眠れない静寂に酔いながら
カァテンの隙間から差し込む朝日に
祈りにも似た夢を見る

パンドラの筺に残されたのが希望なら
今、鍵を開けることにして
空になったのなら
奥底には涙を
その上に摘みたてのつくしと菜の花を敷き詰めて
楽園宛のシールを貼り付けて
書き上げたばかりの一筆箋と一緒に
虹色の銀河に
投げ込むから

いつか

もう一度、笑って


自由詩 つくし Copyright 士狼(銀) 2007-02-18 22:35:57
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