アンテ


コップの縁にとまったガラス細工の鳥が
思い出したように身体を傾けて
水を飲む様を演じる
赤い液体が体内を巡る

海のようだ
わたしの中に溜まった水が
満ち引きをくり返しながら
すこしずつ
わたしの内側を削り取っていく
ぽたん
時々しずくが落ちてきて
波紋を立てる

童話のなかの出来事
壷の底に溜まった水が飲みたくて
カラスはいくつも小石を中に落とす
ついには水にありつく

玩具の鳥がお辞儀をする仕組みは
あんがい簡単なのだろう
心がなにかを感じる仕組みも
わたしの起源も
考えれば判ることなのかもしれない

壷の底に水が貼り付いているのは
重力のせいだ
水が壷に溜まるのは
空から雨粒が落ちてくるせいだ
壷が立っていられるのも
石が底に沈むのも

じゃあ
壷がなければ
重力はなにをすればいいのだろう

鳥をコップの縁から外す
床に落とすと
かしゃり
粉々になる
赤い液体が流れ出す

不思議なことはなにもない

コップの水を飲み干す
いつか
わたしも高いところから落ちて
こんな風に
壊れてしまうのだろうか

そして
だれかをがっかりさせるのだろうか

判らない
膝を抱えてうずくまる
喉がなにかを叫んでいる

判らない
わたしが椅子に座っていられるのは
重力があるから
それだけなのだろうか

かしゃり
音がする
気持ちが流れ出す


自由詩Copyright アンテ 2003-04-23 02:32:56
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