春の電撃作戦
たもつ


春の電撃作戦。開始。
街のいたるところで僕らは耳に手をあてる
どかん
それは小さな破裂
作戦が始まった合図だ、ほら
そしてまた、どかん
コンビニで働くあの娘、最近きれいになったね
という噂はすでに街外れにある喫茶店のマスターにまで広まった
春だからさ?
けれどまだ僕らはコートを手放せない季節にいる
そしてまた、どかん

コートといえば、わたし小学生の頃、露出狂を見たことがあるの
まだ寒かったわ、下校途中にね
合唱部だったのよ、市のコンクールがちかくて、夜遅くまで練習して
街灯の下に男の人がいたの、おじさん、コートはねずみ色だったかな
いいえ、黒だったかも、いきなりそのコートをわっと開いて
何だったと思う?
菜の花だったの、一面の。一面の菜の花畑
きれいだなあ、って
でもきちんと見ることができなくて
その時初めて、男の人って卑怯だと思った
そう言いながら男のモノをティッシュで拭く手の温もりに、どかん

「裁判長!それは間違っている!」
「静粛に。傍聴人の発言は認められていません」
「あなたは何で人を裁く!人に人が裁けるのか!」
「人が裁くのではありません。法が裁くのです」
「その法をつくったのは誰だ!神か?人だろう!」
「そうです、人です。欠陥だらけの人です。人は欠陥だらけです。
だからこそ人は正しく生きなければなりません」
裁判長はニコリと微笑んで続ける
「耳に手をあててごらんなさい。春の電撃作戦はもう始まっているのですよ。どかん」

春の電撃作戦。開始。
雪が再び空に帰る準備をしているころ
虫たちは複眼を覆うまぶたの一つ一つを開ける
花は花であることの意味を思い出し
その側から僕らは生まれていく、作戦を開始するために!
今朝、ベルトの穴を二つ間違えました。どかん
「希望」という字をかみ締めると歯ぐきから血のようなものが出ます。どかん
失いそうなものを備忘録に書き留めていく夕暮れは。どかん

どかん
そしてまた新しい恋をしよう、と誰かが言った







自由詩 春の電撃作戦 Copyright たもつ 2004-04-15 08:45:27
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