東京弁の女
なかがわひろか

うちはあんたのことがめっちゃ好きやねん
ほんま誰にも渡したくないねん
いっつも調子のええことばっか言う人やけど
なんやしらんとにかくめっちゃ好きやねん

東京弁の女がええと言うから
知り合いもおらんのに何度も上京しては
カフェの姉ちゃんとかに話しかけて
一生懸命勉強したんやで

あんた来年からこんなとこで働くんやな
人がとにかく多て目ェ回りそうや
知っとる人もおらんでただの憧れだけで
ほんまにちゃんとやっていけんのかいな

おばちゃん一人にして大丈夫かいな
そんなええかっこせんでももう十分やでって
お正月に二人になったときに言うてはったわ
ほんまは泣きたかったかもしれん

うちはあんたのことがめっちゃ好きやねん
今さら恥ずかしゅうてよう言わんけど
つらなったらいつでも電話しておいで
練習した東京弁ではっぱかけたるわ

あんたにおしゃれなカフェなんか似合わへんやろな
あんた満員電車ちゃんと乗れんのかいな
お人よしやさかい席譲ってばっかやったら
あんたが疲れるよ

おばちゃんのこと
いつかちゃんと迎えに来たりな
強がって見せても
結構弱い人や

そんとき一緒に連れて行ってくれる人が
うちやったら
もう
めちゃくちゃ嬉しいけど

うちはあんたのことがめっちゃ好きやで
一生言わへんかもしれんけど
めっちゃ好きやで
別れるときは
ちゃんと男らしい言いや
そんなこと言われへんこと
密かに願ってるわ

うちはあんたのことがめっちゃ好きやねん
もっとええ男探そうていつも言うてるけど
あんたほどええ男は
まあぎょうさんおるけど

せやけど
うちはあんたがめっちゃ
めっちゃ
好きや

(「東京弁の女」)


自由詩 東京弁の女 Copyright なかがわひろか 2007-02-18 02:12:15
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