如月駅
Rin K
つないだ手を
そっ、と離して
春までの距離を
歩数で測っていた君は
三十一歩でくるり、と振り返って
僕に何かを伝えてきた
如月駅を走り出した始発列車が
僕を追い越して
君を追い越して
声を運んでいったものだから その言葉が
さようなら、か
ありがとう、か
好きでした、かさえも
結局はわからないまま
君を真似て 次の停車駅まで
大またで歩き出す
いつしかの夏、波に浮かんでいた日のように
僕が進んで 君は
止まらず 僕が
止まって 君は
戻らず
そのときも君の声は
笑い声に混ざって聞き取れなかった
そのときも僕は
足りなくなった言葉を見失ったままだった
線路沿いは
君が振り返ったあたりから
もうつぼみが開くだろう
花びらは、こころのかたち
今年もまた、思いの数だけ 白く
白く舞うのだろう
ひとひらは君の
ひとひらは―――
追いついてもう一度だけつないだ手を
そっ、と離して 風の
ゆくさきを追いかけたら
そこには春を予感したような
さくら色の空が広がっていた