浮遊する星
umineko

先輩が急逝した。

スキー場で倒れたんだそうだ。ドクターヘリも飛んだらしい。まだまだ、これからというときに。

先輩が主催していたメーリングリストがある。会員は2500人。毎日の膨大な投稿に、それぞれコメントをつけて返信。確かな知識とウィット。日々の仕事が忙しいのもよく知ってる。いったいこの人はいつ寝てるのか。まさにそんな感じ。

  *  *  *  *

今、メーリングリストには続々と御悔やみの書き込みが届いている。真夜中に、そのひとつひとつに目を通しながら、私はただ、流れている。

(新しい別れの儀式だ。)

と、私は思う。たとえば川面にそっと、ろうそくの小舟を流すように。
この広いネットの海に、哀しみが浮遊する。電送され、それはそこに、静かに降り積もる。

見知らぬ人もいるだろう。ネットだけのおつきあいの人。あるいは、その場に居合わせた人、も。誰もが静かにキーを打ち、ここでない場所を想う。

  *  *  *  *

今、私のメーラーは、先輩の名前でいっぱいだ。

いつか、私の訃報が、この場所に届いたときに。
私の名前が、モニターを埋めるような、そんな風景を私は見たい。
私は、私の好きな場所で、花に囲まれるように、ことばに埋もれて眠りたいんだ。

そうして私は流れていく。

私はここで。






散文(批評随筆小説等) 浮遊する星 Copyright umineko 2007-02-15 07:57:42
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