「くま」
望月 ゆき

昔の彼女にもらった
シベリアンハスキーのぬいぐるみに
つい なまえをつけちゃったんだよ
そのせいで 
今もそれは ぼくの実家で生きている
そんな事情は知らない
ぼくの家族に守られながら
ピアノの上に座っている

昔の彼女の何もかもを
いとも簡単に処分できたのに
シベリアンハスキーだけは
生きつづけてるんだ

それから ぼくは
ヒト以外には
なまえで呼ぶことは やめた
すべてのものを
客観的に 
遠巻きに見守る決心で

だから ぼくは
心底 ぞっとしたんだ

今 ぼくの部屋に
たったひとつあるぬいぐるみを
きみが 手にとって
「モモちゃん」なんて呼んだときにはね


「くま」にしとけよ


自由詩 「くま」 Copyright 望月 ゆき 2004-04-14 01:07:01
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