わが実験艦シュレスヴィッヒ・ホルスタイン
大村 浩一

牛屋は牛食わず、とか
わけの分からないことを口走りながら、
牛に呼び掛ける詩を書いたことがある。
「ホルスタイン。
 詩を書きたい。
 ずぶ濡れのお前に向かって。」なんて、
決心にしては妙にまとまりの良かった詩。
あれから8年近くたつけど、このごろ驚くのは
詩が仕事に見えて仕方が無いってことだ。
詩が窮屈で仕方が無いなんてどこかおかしいじゃないか。
そんなところからは詩はひっきり無しに漏れ出ていくはずだ。
(漏れている、詩が漏れているっっ)
詩で動く推論エンジンの放射能で
チェックカードは朱(あけ)に染まりおり。
いまごろ気づいてももう遅い。
(動いていやがるよこの船…)
というわけで俺の実験艦にようこそ、
元はドイツの旧式大戦艦、シュレスヴィッヒ・ホルスタイン
いまでは祇園祭りの山車よりも外見は雑然。

船名は地名からのはずだが
なんせホルスタインゆえ肉の要請、肉の誘惑。
今日は習字で「好きなもの書け」の課題、
ヌケラレマセン。
言うに事欠いて、ひと言毛筆体で見事に
「ハンバーグ」             ※
筆おろし塾グルメ級。
和紙特有のにじみがステキ。
ハンバーグの粘りとは何だ。
ハンバークのファンデルワールス力(りょく)とは何だ。
肉の粘りは好きだがスジはキライという
適当な俺の人生にピッタリの
元は前ド級戦艦、シュレスヴィッヒ・ホルスタイン
その船上レストランのドイツ料理がハンバーグ。
ハンブルギーレンって「ズタズタにされる」って意味じゃなかったっけ?
親善で出かけていったポーランドのダンチヒ港で最初の一撃、
(動いてるよこの船…)
対岸ではトーマ将軍の兵士たち、
下流に向かっていきなりケツ出し。
風になぶらせる陰茎はステキ。
牛ゆえに肉の要請、
肉の誘惑。

わが日帝海軍の実験艦『夕張』は
小さく作り過ぎて失敗した。
大戦後期には痩せこけた貧相な雑種犬みたいになって
何かであっさり沈んだはずだ。
わが実験艦は、だからなるべく大きく大雑把に作る。
なんでもかんでも言葉で作れる器用な私のこと、
おかげで沈まぬ太陽になったはいいが、
入れ子が入れ子になって、
どれが何につながるレバーやコードや管なのやら、
元が古いせいで何がなんだか分からない。
(もしもーし、もしもーし?)
くしゃみ一発ぐるぐる回り出すテクニカラーのオバケ。
風を入れようとすればいきなり温泉が吹き出るし、
何を思ったか『フィッツカラルド』よろしく山までよじ登る。
実験艦シュレスヴィッヒ・ホルスタインは水陸両用、
酔った勢いで3階の窓から宙も飛ぶ、
いまでは祇園祭りの山車よりも外見は雑然。
道路の段差でズドンと揺れると、
音楽隊の演奏が恐怖で一瞬止まる、
出来の悪いカーステレオみたい。
機械いぢりは素敵。
女いぢりは素敵。
(だからどっちもあんまりさせてもらえない)
銀座・白ばらに行って地元静岡の女と話す。
神田大衆パブ・サンに行ってナマイキな娘っ子と話す。
実験艦シュレスヴィッヒ・ホルスタインは
いまでは川崎駅南口堀の内界隈のように雑然。
船上レストランではドイツ料理。
そのウエイトレスの太り肉の女の尻に
なせか触ってはいけない事になっているので
(そのくせミニスカートとは
 何か勘違いしている料理店だな!)
イライラさせられたまま、
色々横断幕垂れ下がった汚い鳥の巣の如き有様のまま、
何を実験していたのかさえも忘れたまま、
徹夜続きの言葉の実験艦シュレスヴィッヒ・ホルスタインは
春狂いの揚子江をぐるぐる回りながら下っていく。
機雷だ!

                ※桐島いつみの漫画から


平居謙 主宰『脳天パラダイス』収録
2007/2/11 『今村製作所』により新宿MARZにて朗読


自由詩 わが実験艦シュレスヴィッヒ・ホルスタイン Copyright 大村 浩一 2007-02-13 12:40:32
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