暁の魔王の花嫁
蒸発王

雨の日に嫁入りした

嫁ぐことの条件は
髪を切ることだった


『暁の魔王の花嫁』

髪は
『神』に繋がるから
あの人は其れを嫌った

逆に
嫁いでからは
髪を伸ばすように命じられた
口だけで反抗してみたが
所詮
喜ぶことは好きなので
言うとおりになってしまった


暁のような人

糖蜜のような黄金
ゆるやかに伸びる紫煙
結婚指輪は緋色のガーネット
そして
憂いを残す藍色を思わせる残り香

魔王は孤高に残虐に
愉快に笑うが
寂しそうだ

全ての始まりを詠うはずなのに
何故か
この夜の
この世の終わりを見つめている





そういう男を愛した




時が経って
魔王は書物の中のみに
封じられた

彼の存在を信じるものは
この朝焼けの下に居ない
存在は希薄になり
いつしか
彼は書物に消えた
特に離縁もされていないし
まだまだ蜜月のつもりだから
私は花嫁のままだ

ただ
彼が目の前に居ない

在るのは
眼下に広がる
彼を生き映したかのような
暁だけだ


ああ
貴方が昔切り落とせと言った
私の髪は
すっかり形を変えてしまった
黒から銀に
夜から朝に
神から魔王に
今も
これからも


貴方が
私のカミサマ



本当かどうか試したくなって
伸び流していた髪を切ってみたけど
毛先がとても痛い
神経が通ったかのように
髪が痛い
見れば
毛先は残らず枝毛になっていて
2つにわかれた髪の毛が
彼を求める様だ

やはり 女々しい

そんな風に笑って

暁が綺麗に浮ぶと
ハサミで毛先を切ってしまう
落ちた枝毛は空から落ちて
白く細く雨が降り


嫁いだあの頃を思い出す


私の花嫁衣装も
私の髪も
愛する事も


雨に
似ている




雨に
似ている








『暁の魔王の花嫁』


自由詩 暁の魔王の花嫁 Copyright 蒸発王 2007-02-11 19:34:03
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【女に捧ぐ白蓮の杯】