最後の夜タクシーから見えたものは
田島オスカー



その刹那
滲んだ夜景の濡れかたが
酷く美しかったので
そのガラス越しに 
くちづけてみました

落ちて逝く様を
見られたくなかった
と言うのが事実でありますし
本当はどうでも良い事でも
今は何故か 
ことごとく素敵に見え
その素晴らしさに
それでも打ち震える事は出来ませんでした

例えば爪を
一枚また一枚と剥がされていくような
痛み と恐怖 と苦しみ と屈辱を
一度にみんな味わってしまえる点で私は
恐らく誰にも勝っていたのです

あの夜景も今は
思い出の中で スモッグに汚れてしまいました
流していた涙の為に
本来渇いている街並みに
気付けませんでした
本当は今でも
夢を ひと時でも
ほんの些細なものでも
夢を 見ていたかったのです
いつの日も




自由詩 最後の夜タクシーから見えたものは Copyright 田島オスカー 2004-04-12 18:59:13
notebook Home 戻る