低体温
さくらほ

ぐらりと揺れたのは
景色じゃなくて私だった
見知らぬ若者に少し体重を預けバランスをとる
助けてはくれないが積極的に拒みもしない
そんな時代だ

電車を降りて足早に地下道を歩く
私の前には背中がいっぱい
饒舌で
無防備で
明け透けで
後ろ姿はなんて恥ずかしい
私も誰かに後姿をさらしている

横断歩道を草食動物と肉食動物が
肩を並べて歩いてゆく
どちらが食うか食われるか

お店に入り
ちょっとコスプレちっくな制服に着替え
店内に負けぬ人工的な外を見る
ガラスの向こうは二倍速
たった今まで自分がいた場所なのに
その光景に目が回りそう
この街に青は似合わない
この街で赤ちゃんは暮らせない

見上げた空には
光のフリルでふちどりされた黒い雲
アンバランスなその姿は
背伸びした未成年の女の子みたいで
やけにまぶしく見える
昨日まで何かが植わっていた所に
今日は突然チューリップが咲いている
進んでいるこの街は季節までもが早く訪れるらしい
それならば今朝方ちらついた雪は
もう遅れてるという事なんだろう

朝から痛い頭で皮肉めいた事を考えている私も低体温でこの街に生きている


自由詩 低体温 Copyright さくらほ 2007-02-04 12:55:21
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