星屑の停車場にて
ダーザイン

一.永劫回帰

今日の星空はとってもきれい
おまえのところも晴れていたら見上げてみろよ
カシオペアやプレアデスが頭上でふるふる震えている
白鳥座の十字架は西の空に沈んで行こうとしている
もうすぐ冬だ。真っ白な雪が、汚いものも優しいものも
みんな埋めてしまうんだ
俺はちっぽけな屑。俺も埋めれや
今日の少女は赤みが少し増したようだ
赤方偏移って奴か?
ピンクのワンピースをまとった少女はどんどん遠ざかっていくのだが
いつかまた帰ってくるんだそうな
そんなことを永遠に繰り返しているうちに
古いモノクロの映画フィルムのように
擦り切れてしまわないだろうかね
宇宙の熱死推進に青春を賭けてきた俺としては
永劫回帰を証明する近年の天文学者の観測結果は不満
よって宇宙はいずれ擦り切れると仮定してみる

二.星屑の停車場

世界の果てへの旅の途上
星屑の停車場で膝を抱え
私はバスを待っています
来るはずのない青いバス
道は草むらの中に消えて
草原は海中に溶け込んで
夜花を照らす星々の灯り

貴女の姿を見失ってから
ずいぶん時が経ちました
遥かな岸辺の波打ち際で
化石している鳥達の飛影

永遠に触れた旅の思い出

三.カマイタチ

初雪が舞う峠を飛ばしながら、ぼんやりと「不明」の言葉を反芻していて
一瞬、虚無が左眼の奥で炸裂し、危うく谷底に転がり落ちそうになった
金魚鉢の中の金魚のような俺の永劫回帰
想像しただけでぞっとして、逆上の果ての神殺しを演じかけたわけだが
むろん神様なんてとっくに死に果てているわけで、ナイフは空を切り
俺は存在しないも同然の、時空の歪みのような男なので
傍目にはカマイタチが虚空をよぎっただけ
すなわち存在しないも同然の出来事だったりするわけだ
微かな記憶の糸を辿り
藁色の髪のひまわりのような笑顔を、思い浮かべてみようとしても
影絵芝居に灯す光源は見つからず、夜は更けていくわけで
とても、もう一度とは言えない
シジュポスのようにはいかない

四.ゼロの夏

しんしん降り積む雪の夜空に
夏の形見の花火をひとつ
打ち上げてきました
えいえんに失われた
ゼロの夏

送電線をたどって
坂道を登りつめても
遠い記憶の中で微笑んでいる
ピンクのワンピースのあなたは
もうどこにもいなくて
誰もいない夜空に灯した光の花束は
誰に届けられることなく
消えていったのです
さようなら
20世紀

五.鉈を一本もってこい

風の強い夜だ 星がふるふる震えている
草原の千の舌がざわめき 電信柱をたどっていくと
地平線で、人の形をした巨大な塔が燃えている
おいお前、なたを一本もってこい
明日という名の空ろな祈りを、打ち据えた無の一撃を
なたを一本もってこい

六.放電

星屑の停車場で
あなたに電話してみました
海の声も 風のそよぎも 眠っている
深夜の国道
どこか遠い所で
放電するような音が聞こえています
オヤスミナサイ コノヨル

七.消えろ、すべて

俺は宙に浮いている
下水溝を流れていく
紙くずのように風の中に消える
雨がしとしと降れば 電線はしとしとにじみ
死んだ女の声が聞こえる
たくさんの声が雫になって
落ちてくる 木霊する 響き渡る
落ちていく どこまでも どこまでも
無底の闇の奥深くへと
アスファルトは水を吸わない
水は黒い鏡面の上を流れる
俺は宙に浮いている
或いは下水溝を流れていく

消えろ
すべて

# 全面的に書き直しました。改訂新版はこちら。
http://members.at.infoseek.co.jp/warentin/hosikuzu.html


自由詩 星屑の停車場にて Copyright ダーザイン 2004-04-10 08:22:46
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