マリオネット
下門鮎子

Tシャツをハンガーに掛ける
ちゃんと裾のほうから
ハンガーをフックに掛けようとして
フックを見失う
フックが見当たらない
ハンガーが掛けられない
行き場を失い
ハンガーを手にうろうろする
崖から落ちそうになって

(フックは、フックは)

命綱がどこにも掛けられない
皮膚が溶けて触手のように伸びる
崖の上には
ほくそ笑む人形遣い

触手で出来た糸で
吊るされたマリオネット
しっかりつかんでもらえることがうれしくて
いつまでも踊りつづける
屍の上で
おかあさん と叫びながら

糸の切れたマリオネットは
神と祀られる
人形遣いの住む
血のように赤い社で

(もうフックなんか探さないで)

そんなこと言ったって
服が掛けられなきゃねえ
ネジの弛んで落ちたフックを
見つけて拾い上げて
ひょいとハンガーを掛けるあなた

あなたのどこにも
触手は見当たらない


自由詩 マリオネット Copyright 下門鮎子 2007-01-26 20:08:36
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