傷口から羽根
士狼(銀)

夜、
左の肩甲骨に
小さな傷が生まれた
羽根でも生えてくるのなら
わたしはきっと毟り取ろう

朝、
柔らかい霧雨が降ってきて
わたしは傘を捨てた
強く責めるなら抵抗もしたけれど

雨粒がわたしを包むように
光り、弾く
溶け出していくみたいに
制服がゆっくりと濡れていく
少しずつ重たくなる体を
飴玉みたいに持て余しながら

夜、
傷口が膿んだ
ブラのホックが赤い
羽根でも生えてくるのなら
わたしはきっと毟り取った
それでも雨に濡れた体は
羽根が欲しいと嘆いた

海に
呼ばれる人間になりたいの
すぐに飛んでいける
翼が欲しいの
心、共鳴、今日、迷
懐かしい海の匂いが鏡に反射して
脊髄が震えた
羽根が、

飴玉を舌に包んで眠る

朝、
目覚まし時計は鳴らない
ぼんやりした頭で朝焼けを見ながら
わたしの成分は
きっと海に還るのだと
随分昔から知っていた気がした




自由詩 傷口から羽根 Copyright 士狼(銀) 2007-01-24 21:43:34
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