菜の花
松本 卓也

まるで拭う事を忘れた涙が
頬を撫でる指と錯覚するように

幾度も呟いた愚痴や寂しさが
いまいち消化できない感情と共に
過去を奪って 未来を閉ざしている

奇妙なほど暖かい冬が黙々と過ぎていく
慣れ親しむ事の無い哀しみが積もって
今日が無意味だったとの結論が
背中越しに肩を揺さぶっている

偽者でもなく
本物でもなく

季節はずれの菜の花が咲いていた
線路脇の階段で腰を下ろし
行き去った電車から外を眺める
幼子と目を合わせて

微笑んでいるように見えたのか
泣いているように見えたのか
尋ねてみたい衝動に駆られる

野良猫が一匹
足元に擦り寄ってきた

空は不自然に青く
雲は腹立たしいほどに白い

小さな鳴き声が引き戻す現実
ただ抜け殻の底に張り付いた
残骸を食い潰しながら
生に縋りつくだけの無能

価値など既に見失っているけど
小さな頭を撫でる温もりくらい
許されても良いじゃないか


自由詩 菜の花 Copyright 松本 卓也 2007-01-24 01:26:13
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