魔方陣の午後
umineko

先輩から、「ユンケル皇帝液」をもらった。金色である。

今週、追い込みだろ?あ、はい、トホホって感じで。じゃあ、これ。差し入れ。
もらったガラスの小ビンは、やたら甘くて、苦かった。子供の頃のシロップを思い出す。オトナって、みんなこんなのを飲んでるんだろうか。まあ自分も、いいオトナではあるのだが。

しかし、そのシロップもどきの効果は抜群だった。眠くない。もうアクセル全開である。ブルース・リーの物まねをしなさいといわれたら、交差点の真中でやっちゃいそうな勢いである。カフェインに弱いのは知っていたが、どの成分が私をしてここまで至らしめたのか。出来るはずもないといわれた資料が明け方に完成する。ぜんぜん、眠くないので、そのままお城の周りをランニングした。早起きのじーちゃんばーちゃんを軽々と追い抜いた。

だが。午後になって。
私に虚無が訪れる。

眠い、のではない。ただ、真ん中の、大事な部分が作動していない感じなのだ。どうなってもいいや。私はふてくされた。走れメロスの、主人公を思い出す。やんぬるかな。そのときの私は、すべてを投げ出したかった。どうしてこんなに駄目になってしまったのだろう。私は自問し、そのこと自体が悲しくなった。シロップもどきのことは、すっかり忘れていた。

気づくと私は、床の上にいた。身体のあちこちが痛む。あり得ない角度で眠ったらしい。首をこきこき鳴らしながら、ふてくされた私のメロスは、どこかに消えていた。そうしてようやく、昨日飲んだ、シロップもどきのことを思い出したのだ。

虚無とは。そんなふうにしておとずれるのだろう。ユンケル1本ごときで大げさな、とも思うがしかし、アーチストが、ミュージシャンが、あやしいくすりにおぼれたりするのは、このギャップを求めているのかもしれない。欲望を。さみしさを。増幅させるせつない魔法。

私は、束ねられた資料の山を、ちらりと見やる。
あなたはだあれ?私?

それとも。
 
 
 


自由詩 魔方陣の午後 Copyright umineko 2007-01-23 10:18:47
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