鍵っ子の帰宅
ブライアン


職場の横に小さな遊歩道があった。
古びた銭湯の横には、湿った薪がおいてある。
コンクリートからは草がはみ出していて、腰掛にもならないパンダが一頭、色の褪せたペンキをうらむように佇んでいた。

 「今日のご機嫌はどうだい?」
 
鉄柵には蔓が巻きついている。
遠くには、都庁のビル。
怖いもの知らずの装いは、テレビに映る都知事の顔にそっくりに映る。

 「夕飯は、冷蔵庫にしまってあるから」

木造のアパートが並ぶ。
建築中の高層マンションが大きな音を立てる。
野良猫が、パンダに腰掛けた男性の下に集まる。男は、パンくずを与えている。
ぼろぼろの服を着た男。

 「寝る前に鍵を確認するんだよ」

社会は神聖なものを毛嫌いするようだ。
弱いものを弱いものが助ける仕組みを長年かけて構築した。
互いの肩に重圧だけが重くのしかかる。
明日を夢見て足を引きずる。
野良猫たちは男の後を追う。が、途中でやめてしまう。

 「コタツで寝ないように注意しなさい」

都会のカラスは強い。漆黒の羽が仰々しい。
筋肉質の体を見ると、死神のようにさえ思える。
カラスは、強い。

 「12時までには帰るから」

ゴミ袋をつつくカラスの姿。
神聖なものは排除される。
いづれ、
西新宿の遊歩道は、住友ビルとか、デザイナーズマンションに生まれ変わる。
木造のアパートも、ともに生まれ変わる。
草は刈られ、蔓は除去される。

 「おやすみなさい。」

「また明日」が続くために。


自由詩 鍵っ子の帰宅 Copyright ブライアン 2007-01-20 18:28:59
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