山崎くん
芳賀梨花子

山崎くんは六年生
いつもサッカーボール蹴っていた
放課後鉄棒見ないふり
スカート回りで前回りくるりと回ると
山崎くんもくるり

仰げば尊し三色菫
手渡せず見送った

山崎くんはセンターバック
いつもサッカーボール蹴っていた
転がってこない人生の転機
眼鏡越し美術室の窓は観戦記
スケッチブックを閉じて
コンタクトレンズにしようと決めた

山崎くんは男子校に推薦が決まったんだって
ひとりぼっちでサッカーボールに座っていた
文化祭の実行委員会理由付け
乾燥した赤いグラウンドの夏休み
日に焼けた三年生ひとり

春夏秋冬山崎くん
ずっとずっと山崎くん

山崎くんはもういない
なのにサッカーボール誰かが蹴っている
山崎くんはくるりとまわる
春休みが過ぎても
わたしの瞳の中でくるりとまわる
目をこすると
コンタクトレンズがくるり
廊下を転がっていく
山崎くんと出会うことのない廊下を転がっていく


自由詩 山崎くん Copyright 芳賀梨花子 2007-01-19 13:44:47
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