花売り
ぽえむ君

農家のおばあさんが
小さな乳母車に載せているのは
自分の畑で育てた花だった

生まれながらにして背が低かった
歳をとり腰も曲がってしまった
それでも車いっぱいに花を積み込んで
今日も花を売りにゆく
赤いスカーフを頭からすっぽり被り
もんぺ姿でけなげに車を押してゆく

ある日の午後
その花売りは
新しくできた住宅街にやってきた
一軒ずつ一軒ずつ
お花はどうですかと
一軒ずつ一軒ずつ

都会育ちの奥さんは
インターホンでしか相手にしない
花を見ず
顔を見ず
人を見ず

それでも花売りは
一軒ずつ一軒ずつ
お花はどうですかと
一軒ずつ一軒ずつ

それぞれの家には
ホームセンターで買った花と芝生が新しい

住宅街の上り坂で車を押しながら
下り坂で車を押さえながら
花売りは
乳母車の花をまるで
赤ん坊を乗せているかのように
優しくそっと動かしてゆく

冬の夕陽が
祖母と孫を黙って見守っていた


自由詩 花売り Copyright ぽえむ君 2007-01-18 23:00:12
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