祈りに関する情景
吉田ぐんじょう
・
夕暮れの遠くに霞む
四台のクレーン車は
輪を描くように向かい合って
なんだか
太古の昔に滅んだ恐竜の
弔いをしているように見える
・
朝に洗濯物を干す母親は
太陽に両腕を広げて
大きな十字架に
なってしまった
敬虔な気持ちでそれを見つめる
わたしの前に置かれた牛乳は
もう冷めてしまっている
・
深夜のガードレールに寄りかかり
うつむいて
メールを打つ若い女の子は
聖書を読む宣教師のように
背中を曲げている
彼女が巻いているバーバリーは
何かしら神聖なものを思い起こさせるような
きっぱりとした色で
はたはたと風に揺れながら
やわらかに彼女を守っている
・
悲しくなりたいときには
セルフ洗車をすることにしている
五百円でワックスまで掛けてくれるコースで
窓もドアもぴっちり閉めて
ミラーも折りたたんでしまって
待っているとそのうち
モップのお化けみたいなのが
豪雨を降らせながら通過し
車内は夜になってゆく
世界の終わりがきたような感じだ
ハンドルにもたれて嗚咽してみる
豪雨は止まない
少しだけ祈ってみる
おなかがぐうと鳴った
多分まだ
わたしは生きたがっている
そのことが何となく嬉しい
洗車が終わったら
ぴかぴかの車で
何か温かいものでも
食いに行こうと思った