あしたのかぜのむこうがわ
あおば



はがきをかってきてください
かわむこうのおみせにたちよって
はがきをいちまいかってきてください
呪文のような声がして
我に返る

誰もいなくなった
午後の大通りには
牛車がのろのろと通るだけ
居眠りをしているのか
御者の背中がゆらゆらとして
荷物と一緒に落ちそうになっている
オート三輪がうるさい音を立てて追い抜いてゆくと
慌てて左に寄せてどぶ板の上に車輪を走らせ
危うく衝突を避けた
無様な姿に笑いこける子供たちの姿
誰もいなくなった通りには
砂埃が立ちこめて
しばらくは息を潜めて
物陰に隠れ
誰もいないふりをして
つぎの獲物が通るのを待っている

隠れん坊のようだ

馬車が来るので
パチンコのゴムを思いきり引き伸ばして
ねらいを定めて
一斉射撃
インディアンの役もなかなか難儀だ
今度は騎兵隊にして欲しいと願う

誰もいない通りなので
願いはなんでもかなう

はがきをかってきてください
か細い声に我に返るが
向こう川の岸辺には蚊柱が立っていて
誰も通ることが出来ない
人なんか誰も住んで居ないのだ
はがきなんて何処にも売っていないのだ




自由詩 あしたのかぜのむこうがわ Copyright あおば 2007-01-13 23:20:27
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