ニレ
嘉村奈緒


  わたし
  ごくつぶしの耳鳴り芳一と
  反転した橋の下
  こうもりみたいな夜を過ごす
  森の、もっと森の方
  ただのニレだったという屍が
  糸を引いて地面に伏せるまでの時間
  喉にニの指と三の指をあて
  待っている

  毛むくじゃらのものは生きているんだって
  あんまりにもぶつぶつするものだから
  連れ去られてしまったんだと
  芳一は言った
  それはわたしの母のこと
  わたしは群がる光が嫌いだった
  ここは空気が薄く伸びる
  ここは過ごす
  母もきっと気に入る
  だからわたしも
  連れ去れれてしまうだろう
  あれやあれやと芳一が
  森の森の、もっと森の方へ去ってしまっても
  悪い芽を次々とつんでいた
  ニレが伏しやすいように
  ただ待って
  すでに母は毛むくじゃらになったのだろう
  反転した橋も落ちてしまう


  わたしはそのうち芳一を忘れる
  

 


自由詩 ニレ Copyright 嘉村奈緒 2003-04-19 01:51:52
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