ニレ
嘉村奈緒
  わたし
  ごくつぶしの耳鳴り芳一と
  反転した橋の下
  こうもりみたいな夜を過ごす
  森の、もっと森の方
  ただのニレだったという屍が
  糸を引いて地面に伏せるまでの時間
  喉にニの指と三の指をあて
  待っている
  毛むくじゃらのものは生きているんだって
  あんまりにもぶつぶつするものだから
  連れ去られてしまったんだと
  芳一は言った
  それはわたしの母のこと
  わたしは群がる光が嫌いだった
  ここは空気が薄く伸びる
  ここは過ごす
  母もきっと気に入る
  だからわたしも
  連れ去れれてしまうだろう
  あれやあれやと芳一が
  森の森の、もっと森の方へ去ってしまっても
  悪い芽を次々とつんでいた
  ニレが伏しやすいように
  ただ待って
  すでに母は毛むくじゃらになったのだろう
  反転した橋も落ちてしまう
  わたしはそのうち芳一を忘れる