偽夜
なかがわひろか

偽りを欲した時、私はまだ幼くて
月夜の美しさも、怖ろしく感じていたのでした

しかし幼いとはとても都合のよいことで
私はそれゆえに今よりも遥かに
残酷でいられたのでした

偽りという言葉を、人の為と読んでいた私は
それはきっと誰かの為になることと
思っていました
無邪気なまでに怖ろしい行為を
私は知らず知らずのうちに
行っていたのです

月夜を見て卑猥なことを想像するようになった私は
いつしかこんなにも
大人になっていました

何が私を成長させたのか
それは知る由もありません
しかしそれは
然るべき行為であり
なんら不思議なことではなかったのでした

偽りを
平気で行えるようになったのは
いつからでしょう

そして
人の行う偽りに
平気で気づかぬ振りをするようになったのは
いつからなのでしょう

私にはもう
知る術はございません
後世に残るあなたに
どうかその足跡を
記して欲しいと
ただただ願うばかりなのです

(「偽夜」)


自由詩 偽夜 Copyright なかがわひろか 2007-01-12 03:06:18
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