春待ち人
夕凪ここあ

終電が過ぎて真夜中
ひとりきり家路を辿れば
無音ばかりがこだましてやるせない

呼吸をするたびに白い息は空に溶けていくのに
うまく言葉にできない気持ちは
もやがかかったまま解けてはくれない

冬に去る人
春が待ち遠しい

雪が
点々と道向こうまでほのかに明かりを灯す
たやすく何もかも隠してしまう前に
さっきよりは少し早足で季節を通り抜けたい

夜のずっと奥の方を見据えて
ひとつ空気を吸い込めば
知らない痛みで心が崩れそうになる
私の中に冬の居場所はないから
からだをめぐる匂いがひどく悲しい気持ちにさせる

うわごとみたいに
小さく 春 とつぶやいてみると
形のない気持ちが空に立ち上って
やがて雪と区別がつかなくなる

さくらならどんなにかあたたかいのに
決して交わることはない夜




自由詩 春待ち人 Copyright 夕凪ここあ 2007-01-11 18:44:03
notebook Home 戻る