もう一人のアダム
なかがわひろか

アダムとイブが
神様の庭を追われた一週間後
アダムにもしものことがあったとき用に造られた
もう一人の落ちこぼれのアダムは
目を覚ました

神様には
目覚めたときに
優秀な方のアダムがいなかったら
お前がイブを作れ、と
言われていたから
何も知らないもう一人のアダムは
急いで自分の肋で
イブを造った

どうせなら
好みのタイプにしたかったけれど
もう一人のアダムは
男も
女も
見たことが無かったし
とにかく頭が良くなかったから
世界で唯一知っている人間の
自分に似せた
イブを造った

全く同じ顔と
体を持った
二人

おなかが空いたから
側にあったリンゴを食べたけれど

全く同じ二人だから
なんにも恥ずかしくなかった

そのリンゴが禁断の果実だったということは
後で知ったけれど
そもそも頭が良くなかったから
何が禁断か分からなかったし
後で言われたことだから
神様も
怒るに怒れなかった

神様は
優秀が故に羞恥を知ってしまった
優秀な方のアダムとイブを
嘆いた

同じ顔と
同じ体を持った
アダムとイブは

何の事件も起こさないまま

当然のように

交尾も知らぬまま
子も造らぬまま
そのうちに
死んだ

世界では
優秀な方のアダムとイブが
子を造り
歴史を造ったけれど

同じ顔と
同じ体を
持った
出来損ないの
アダムとイブのことは

神様が己の汚点と知り
恥ずかしがって

聖書から消した

もう一人のアダムと
そこから生まれたイブのことは

酔っ払った神様が

口を滑らしたときにだけ

聞くことができた

(「もう一人のアダム」)


自由詩 もう一人のアダム Copyright なかがわひろか 2007-01-11 02:17:53
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