鳩さぶれ。
もも うさぎ

「もう無理なんだ・・」 と

電話の向こうですすり泣く男の声を聞きながら
鳩サブレーの袋を破いた。

バターのきゅんと効いたこの銘菓を、私は好きだ。

ぼりぼり。

むしゃむしゃ。

ばりばり。

むしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃ
 むしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃ




「鳩サブレーを食べるのをやめて
 僕の話をきいてくれ」と

尚も電話の向こうで声がする。


「君と一緒にいた二年間は素晴らしい時間だったし
 僕にとってもかけがえのない記憶ばかりで

 あの寒い朝にベッドで
 君と交わした約束だって 僕は本気で守ろうとしていたんだ

 一度つないだ手を 離すつもりなんかなかった
 僕の中で核となっていたんだ
 それはうそじゃない
 嘘じゃないのに・・・・・
 なんと言ったらいいか分からない

 ・・・・・・

 
 ・・・鳩サブレーを食べるのをやめてくれ!!!」


彼は少し叫んで、嗚咽をもらした。

電話の向こう側の気配も
その空気も温度も
私には手にとるように分かるのだ。
二年間とは、そういう時間で
それこそ言葉でどうにかなることなんかなくて
そんなのナンセンスで




ナンセンスで


 

ばり、と私は鳩の頭の部分を食した。

サブレーのかけらがつんと刺激する鼻の奥に気づかれないように
ひたすら食べた。


ダイヤモンドのかけらみたいに

甘い夢さらバリバリ食べて、喉がひどく痛かった。









〜鳩さぶれ。〜




散文(批評随筆小説等) 鳩さぶれ。 Copyright もも うさぎ 2007-01-10 19:38:51
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