平野
「ま」の字

柔らかく 昏い光が
ひっそりと漏れだしたように

わずかに傾斜した平坦な地の
襞に、影

鉦がきこえて
列がゆく野は
さびしい海にむかって開けていった

或るひとつの手の
美しい指が
白鍵のうえを息せき切って破顔しひらめいていったとしても
結局は黒鍵上に湧き上がる
暗い低音は要請される
薔薇の花で埋まった手箱に入れられた
硬くちいさなトゲのように
この
小さな時間を支えている 
プンクト

そうやって
昔レオナルドが描いた戸外でピアノを弾きつづけるけれど
そろそろ君は
顔が見えなくなる

密やかにゆるめられる
低音


自由詩 平野 Copyright 「ま」の字 2007-01-08 21:09:02
notebook Home 戻る