彼女の唇
なかがわひろか

何十の唇を
重ね合わせて参りました

たった一度きりの
その後に何も生まれないくちづけや
何度も何度も
歯をぶつけ合いながらしたもの

私は何十の人々と
唇を重ね合わせて参りました

ただ、たった一つ可能ならば
たとえ世界中の人とくちづけを交わしたとしても

あの人のものだけは
どうか大切にしたいのです

私はあの人の唇を前にすると
本能の許すがまま
狂ったように
それを求めるでしょう

私の穢れた唇で
あの人のものだけは
穢してしまっては
いけないのです

この世の全ての人を穢してしまったとしても
あの人だけは
決して、
決して、
私に触れさせては
いけないのです

私はこれからも
数知れないくちづけを交わすでしょう

けれど
たとえ何が起ころうとも

あの人のくちびるだけは
どうか

お守りください

(「彼女の唇」)


自由詩 彼女の唇 Copyright なかがわひろか 2007-01-08 00:29:33
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