獣、然としてアイラインを引く
ミゼット

 青々微のアラン・ギット青年は、側女のヘンリエッタ・イワノア嬢に昨晩、手の甲を噛まれ負傷しました。
 おかげで彼の深い灰色の目は、いつもにも増して憂いが見えるようです。

 カフス釦やら珍しい魚拓など、およそ彼の気に入ったもの全ては、花と共にイワノア嬢に届けられるのですが、頬に入れた墨を何よりも誇る彼女のことです、花以外は屑籠に入っていました。

 アラン青年の父、ススム・P・ギット氏は油の売買で財を成したものですが、年々身長が縮むという奇病に罹り、今ではワイングラス程になりました。けれども主治医ヨソド・イェーム氏によると、彼の姿が電子顕微鏡であっても確認できなくなるまでには、あと七十年と六日十六分三十二秒かかる模様なので、ススム氏は毎日精力的に事業を展開しています。

 噂によるとカマス地区にあるギット家の屋敷には、毎週物乞いの振りをした七人の天使が訪ねてきて、ススム氏のために託宣と祈祷をするそうです。その間ススム氏は最初の契約通り、使用人に二階へは決して上がらない様にと指示を出し、一階の応接間に閉じこもります。ですから毎週金曜日にアランとヘンリエッタは二階の部屋という部屋全てを使い、魚になってふざけあうのでした。


自由詩 獣、然としてアイラインを引く Copyright ミゼット 2007-01-07 23:15:14
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