*風水母の季節**
知風

風水母が空に舞う頃、村は秋神様を迎える。
畑は黄金に、山は紅に輝き、
人々は肌を黒くする。
農夫たちは大地の聖人に実りを祈り、
子らは山繭でじゅずだまを綴る。
風よ、どうか恵みを。

風水母が空を舞う頃、村に夜は訪れない。
かがり火は空を焦がし、
強き炎が風を呼ぶ。
陸の風が麦粒を重くし、
海の風が悪魔を寄越す。
風よ、どうか村に恵みを。

風水母が空を舞う頃、村人は高い柵を立てる。
秋分に山に入り、丈夫な蔦と柳を採る。
網の柵を作るのだ。
子らが柳の網棒で、
猫を追いまわして遊ぶ。
風よ、どうか吾が子らに恵みを。

風水母が空を舞う頃、村は風水母と戦う。
大人は網棒を、子供は頭陀袋をかつぎ、
昼も夜も、畑の見回りに追われる。
風の運んだ悪魔達が、
小麦を枯らしてしまわないように。
風よ、どうか我らに恵みを。


風よ、どうか村に、明日の夜明けを。


2005秋



自由詩 *風水母の季節** Copyright 知風 2007-01-06 15:30:09
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