名前
chitoku

自分らしさを演出する、名刺交換の儀式。
名乗ることの気恥ずかしさ。
激しい脈が心臓を叩く。
予定に無い自己紹介は、肉体的にも危険だ。

思い描くことの全てが、他人のものであるような不安。
住民票の名前をよそよそしく感じること。
聞き慣れない、録音された自分の声。
写真の人物が自分だと認めたくない心。

青年の顔をして帰る自分の家はあるか。
自分の裸足で歩く憩いの場所があるか。
他人であることの自由!
俺は、他人らしく生きたいのだ。

他人は自分、自分は他人。
自分の判断を信用していない。
自分の言動をうそ臭く感じる。
自分らしさの不自由!

自分ではない、自分以外の何者かでありたい。
どうして名乗る相手ごとの名前が無いのか。
出会った人数ぶんの名前が無いのはなぜか。
答えなど無いのだ。
自分が他人でいるために、自分を特定してはならないのだ。

知り合いの数だけ、名前を持ちたい。
自己紹介の都度、名刺を変えたい。


自由詩 名前 Copyright chitoku 2004-06-25 01:41:54
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