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或る深夜観たいものがある訣でもないのにTVを点けた
想わず眼を見張ったそこには見慣れた歩行器を必死に
掴もうとするいつかのぼくがいた
もちろんそれはぼくではなかった
ぼくと同じ脳梗塞で倒れ ....
この物件はお客様の望み通りの物件だと想いますがと
手を摺り合わせることはしないけれど声はその通りの媚び
確かにぼくが希望した通りの物件だけれど
ここはできたばかりの物件なのかなとぼくは問う
....
パリのオペラ座のすぐ横のキャフェ
ぼくが好んで座った席の
もうギャルソンと呼んではいけないムッシュは
ドラキュラ伯爵で有名なクリストファー・リー氏
そっくりのパリジャンだった
でも笑った ....
きみと最後に観た十五夜は
もうどのくらい前だったのだろうか
きみは教えてくれた
中秋の名月はもともと中国から
伝来したものだと
ぼくはそれは知っているよときみに答えた
じゃ十三夜は ....
薬が旨い
本は終わりから読む
音楽は終奏から聴く
恋は別れからはじめる
映画はエンドロールから観る
旅は終車駅からはじめる
夢は目醒めてからみる
そしてぼくは死から誕生する
....
僕は自分が死ぬと知ったとき
僕の人生を嘲笑でも冷笑でもなく
腹の底から笑って死んでやろうと想っている
意識があることが大前提だが
旋律のない歌
死なない死刑
敵のいない戦争
死のない生
文字のない本
結審しない裁判
沈黙しかない議論
性行為のないポルノ
狂人のいない精神病棟
どれも ぼくに似ている
い ....
2年間の契約をした
新聞店からお礼にと
本物のビールが届いた
久しぶりだなと
夕飯を創りながら
コップに移した
冷えたビールを呑んだ
コップ半分で
浴びるほど呑んできた俺が
....
誰か知らないか
人工衛星しか登場しない
SF短編小説を
その作品を見い出したSF作家は
それを書いたSF作家が残すに価する作品は
その一編だけだと評していた
でも確かにそのSF短編 ....
次はと 彼は訊ねた
Y10289035498
執事は答えた
コインが空に投げられた
執事は落ちたコインを見にいった
【裏です】
彼は告げた
【削除】
執事は答えた
【 ....
熱帯雨林の奥深くで
一本の樹が音もなく倒れる
遠い北の冬の海で
雨は海面を音もなく叩きつづける
彼が深夜 唐突に眼を開けるのは
そのどちらかの音を聴いた時だ
その瞬間 眼は闇の漆黒しか ....