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苦いコーヒーを啜る
昨日の残滓を回想しながら
黒褐色の液体が食道を滑り胃に落下していくのを感じていた
かすかな期待が薄紅色にときおり光り
羽毛を生やした生き物のように少しだけ微動する
....
複雑な小路が入り組んだ先に
ほんの小さな広場があって
そこに君の住むアパートメントがある
夢しか見えない君を訪ねる
思い切り太っていて
あらゆることに考えが歪曲し
君はすっかり君でなく ....
貴方の声が
虫のように耳もとにささやき
私の皮膚を穿孔して
血管の中に染み込むと
私の血流はさざめき
体の奥に蝋燭を灯すのです
貴方のだらしのない頬杖も
まとわりつく体臭も
すべてが私 ....
一
罪深い朝よ
おまえはそんなにはりきってどこへ行くというのか
時空を超えて宇宙の滝まで行くというのか
俺を待ってはくれないだろうが
朝よ、おまえは嫌いじゃない
おまえが夜に吐き散らか ....
「山林へ」
いつものように山仕事の準備をし山に入る
ふしだらに刈られた草が山道に寝そべり
そこをあわてて蟷螂がのそのそと逃げてゆく
鎌があるからすばしこくない蟷螂は
俺たちと同じだ
....
昨日から降り続いた雪は根雪となった
近くの川は冷たく骸のように流れている
どこかで枯れた木の枝が
石と石の間で水流にもまれ
とどまっている
流木の体の中までしみこんだ水気が
さらに流木を冷 ....
結露した鉄管を登ると
冷気の上がる自家発電の貯水層があり
ミンミンゼミは狂いながら鳴いていた
夏はけたたましく光りをふりそそぎ
僕たちはしばしの夏に溶けていた
洗濯石鹸のにおいの残るバスタオ ....
郊外の田は収穫のあと放置され、新しくイヌビエがすでに生い茂り、晩秋の季節特有の屈強なアメリカセンダングサが雨に打たれている。
ときおり雨足は強くなるが、大雨になることはなかった。
雨はすべての世界 ....
空気がゆがんで見える夏の日
その横断歩道には
日傘を差した若い母親と
目線のしたで無垢な笑顔で話す少年
ひまわりが重い首をゆらつかせ
真夏の中央で木質のような頑丈な茎をのばしている
山 ....
私は梅雨空の
とある山の稜線に花となって咲いてみる
霧が、風にのって、私の鼻先について
それがおびただしく集まって、やがて
ポトリ、と土の上に落ちるのを見ていた
私はみずからの、芳香に目を綴 ....
暖簾をくぐり、席に着く。
「もり大盛り」
静かに言う。
店員が厚手の湯飲みをことりと置く。
その半分を飲んでいるうちに蕎麦が運ばれてくる。
どんな蕎麦がくるのだろうか、初めて会う人を待つ ....
夜の海をゆらゆらと私は舟を漕いでいた
天球の子宮のような空間
おだやかな潮の香りがおびただしい生を封じ込めている
櫂の力を緩めると島が見える
オレンジ色のひかりを放ち島がゆらめいている
火の ....
君がまだ小さい頃
仕事が一段落すると
すこし秋めいた アスファルトを歩いたっけ
まだ うまく喋れない君の
小さな手を引きながら
やっと歩くことのできる君にあわせ
二人で歩いていた
あたり ....
梅雨の季節に君に遭い
雨の中の紫陽花に君をみた
幾重にも重ねた肺胞の中に
君はすべてを吸い取って
僕は君の吐息の中に埋もれた
暑い夏が来て
君の髪から砂粒がさらさら流れ
僕の耳に入り ....
その店はあった。
丘の上にポツリと立ち、遠く工場の白い煙がもくもくたなびいている。小さな木製の看板に無造作に書かれた、種屋、の文字、周りはトタン板で覆われ、回りには見たこともない草が生えている。 ....
煙突の突き出た丸太で作られた小屋
男は荒砥、中砥、仕上げ砥をそれぞれ一枚抜きの板におき
刃物を研ぎ始めた
小屋の中には丸いストーブがごうごうと燃えている
小屋の一角には一昨日捕らえた鹿が横たわ ....
澱んだまなこが粘りつく液体となってずるずると年月を嘗め回している。あふあふと飯をさらい込み、ゲテモノを隅から隅まで食いつくし、寄生昆虫のように板にへばりついている。自己憐憫の色艶がどす黒く光り、ねばい ....
少女達は駅の回りでたむろしていた
少女達は皆乾いていた
全てのものが無機質な情景の中で
既に前からそこに居たように乾いていた
見えない虫の魂がボウと浮かび上がり
それはまるでカゲロウの ....
「こうなって あういてう」 指差す君
「こうなって あういてうぅ」 何回も
「へんな ロボットぉ」 僕に訴える
こうなって・・・
25年前の君の声が
僕がうなずくまでずっと
小 ....
遠く時空を超えると
幼い君がいた
「おとーたん、どうじょ」
ぷつんと もいだ野紺菊を
ぷるぷるふるえる手で差し出す
薄紫の舌状花をつけた花
稲藁のにおいがする午後の柔らかい日差しの中
君 ....
汗ばんだシャツを背負い
夕暮れを歩く
橙色の入道雲が
薄闇に沈みかけた蒼い空に黄昏ている
少しむっとしたアスファルト
鬱血した時が、俄かに開放されようとしていた
沈静が流れはじめる
....