自転車で
それは
全身がうす桃色に塗られており
まるで幸せを知った少女みたいだった
現実に乗っているものとは違い
錆なんてどこにも見当たらなかったし
ペダルはきいきいと不快な音 ....
死ぬ時の 自分の顔が 見たいなら 合わせ鏡を ダイブして行け
おれ猫好き
猫無表情
猫したり顔
猫困り顔
猫泣き顔
猫笑い顔
猫怒り顔
猫脅し顔
猫そのまんま
咬む猫
吠える猫
眠る猫
そっぽ向く猫
ふとる猫
何かした ....
母の骨 太鼓の中に 詰め込んで ドンガラ叩く 月夜の{ルビMarch=やよい}
双児の肉片を
野良猫が咥え
片鱗に花を咲かせて
モリアオガエルを
抱き寄せる
ふと夜空に顔を上げて
星の瞬きを見つめても
あなたは落ちてこない
赤が赤があることに
素直に頷け ....
見てみろや 踊るボニータ ディアブロが 肉削ぐ糸で 操ってやがる
柔らかな日射しに包まれて
梅のほんのりと香る今日の良き日に
鳥となる準備は整った
目まぐるしい日常の中に
留まることを許してもらえない代わりに
整理整頓を行うための箱を貰ってきた
捨てるべ ....
朽ち果てた誰も訪れる者もいない廃園
寂れた石畳の道をひとり歩く
色褪せた花壇には花一輪すら咲いてはおらず
春を謳歌していた面影はどこにもなかった
かつてこの花園で一輪の花を摘んだことがあっ ....
{ルビ辛夷=コブシ}の白い花が
ほころんでいました
図書館の前の小さな広場に
冬の終わりを 告げるように
けしてそれは、桜のように
春の訪れのあでやかさなどでなく、
可憐な細い花弁 ....
{引用=
冷たいコールタールに沈んで
薄い唇を堅く閉ざせば
沈黙が真実さえも無に返して
上辺を撫でる風には奪うことができない
追憶の時間を抱き締めている
強張らせた体が化石になって
....
今日の夕食は、牛のステーキだった
レアにしろ、ミディアムにしろ
それはもう食べ物にしか見えなかった
それはほんの少し、葡萄畑の匂いがした
僕達は一瞬だけ、目一杯の緑
風を感じてしまったのだ
....
振りかざし 性器めがけて 打ち下ろす 鬼の顔した 木彫りの聖母
・・・ルラさんの幻視による
葛城山の一言主神は
悪事(まがごと)も一言、善事(よごと)も一言
言い離(はな)つ
葛城山の一言主は
若建(わかたける)※1の
悪事(まがごと)一つ糾せなかった。
葛城のウカラ ....
壁にはたくさんの時計が掛かっている。
それぞれが、ばらばらな時間をさしている。
しずかな部屋に、音だけが響く。
せわしなく動いているのもあれば、
今にも止まりそうなものもある。
それぞれ ....
現実世界にこそ悪夢がある
わたしたちは同列を見比べれば
無秩序な鉄槌を下しているのだ
(ジョゼフ・メリックの泣き声を耳にしたか?)
コンマ数秒という早さで鉄の雨が降りだす
今日は ....
血に濡れた 人差し指を 筆に変え 夕陽を浴びて 樹をなぞる姉
深海魚の朝
濃くなる陽射しが
少年とベッドとの境界線を
徐々に明確にしていく
窓を開けると
雨上がりの観覧車と
同じ匂いがする
生まれてくる場所を
間違えたわけではないと思 ....
ぼくの町の
冬と春の境界は
一日で線引きされたように
唐突に 暖かな風が吹き抜ける
山に一方を封じられているものの
海からは潮の匂いとともに
サイタ川をさかのぼり
荒んだ寒風を
穏 ....
うぶごえをあげた春が、もう
街にすがたをみせる
通りの角から
にぎやか過ぎるその声音が、
あたしを助けにきてくれる
手をひくように
階段をのぼったら
勇気をほんのすこしばかり だして ....
二階の窓から曇る夜空を眺めている
降りだしそうな雨をむしろ望んでいる
雨に撃たれてしまいたい
世界に射抜かれる前に
この街を焼き払おうか
*** ** *
持ちきれないほ ....
使い切れないほどの金はどこへ消えたのか
使い切れないほどの人間はどこに消えたのか
抱えきれないほどの食べ物はどこに消えたのか
ウンザリするくらいの笑顔はどこに消えたのか
この国には ....
君がまだ 更生しない 罰として 僕は自分の 指を潰した
まっすぐな 道も
あったのかもしれない
どこまでも続く、単調さがいつか
ありがたいものだと、
気づかされる
そんなもの本当にあるの?
真実は、蛇のように曲がりくねった
螺旋のそれ ....
{ルビ鬱人=うつびと}の 命の水を くみ上げて {ルビ六花=ゆき}を咲かせる 水銀の空
私には
赤いゴムの水枕に
特別な思い入れがあります
私が夜毎に使う枕
その枕は{ルビ理由=わけ}あって
たぷたぷ
揺らいで水を鳴らす
赤いゴムの水枕です
水道の水を ....
傲慢で ひとりよがりな 心臓に ナインインチの 釘をぶち込め
日が長くなってきた
暖かい日がちらほらと
そろそろ学生遍路が道に迷い
路傍で空を見上げる頃か
蝉の鳴き声が聞こえる
まだ冬の終わりだと言うのに
耳鳴りだろうか?
幻聴だろうか?
....
生まれたときから
屈託のある顔をした君は
赤ん坊のくせに徹底していて
怒り出すと
……いやっ
興奮し出すと
顔が赤黒くなるまで興奮して
泣いているのか怒っているのか
とんと僕には分から ....
横隔膜、という膜がある
橋の上を歩いているときに
初めて知った
何かの香料の良い匂いがしていた
早く帰りたかった
知っていることが増えて
もっと上手に嘘がつけると思った
....
とあるマスターはこう言った
「一時の情に流されてはいけないよ」
と 熟練の笑みを浮かべながら言っていた
手元には注いだばかりの冷えたグラス
何度目かのおかわりすら忘れれば
カチリ ....
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